ランジェリーさんの記憶

【1】昭和ランジェリーを買いに来る男

古着屋さんで働いてた頃、いつも女性物のランジェリー(昭和の女性下着)を買いに来るおじさんがいました。ランジェリーコーナーは店内の一番奥でした。
女性に人気で、コレクションしている方もいました。やらしい感じじゃなくて、単に可愛くてレトロだから買っていく、という感じでしたね。
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【2】作業服にボストンバッグ、そして無言

そのおじさんは、いつも作業服を着ている。
肩にはボストンバッグ。
しゃべらない。

入ってきて、いつも同じ場所に向かって歩く。
決まって店内の1番奥。
昭和レトロなランジェリーコーナー。
毎回2枚ぐらい買ってく。
新しいランジェリーが入荷したら、必ず買ってくれる。

【3】濡れたお札と、触れたくない距離感

そして支払いは、必ずお札。

そのお札は、いつも濡れている。
湿ってるとかじゃなくて、濡れている。

それを、そのままレジに入れるのはちょっと嫌だった。
だから、乾かしてからレジに収めていた。
お釣りを渡す時は、少し手に触れられるのが
ちょっと怖かった。
他のお客さんが来店すると、何も買わずに出て行った。

【4】絶対に話しかけてはいけない

そのお客さんには絶対に話しかけてはいけない。

売り上げが悪い日は助かりました。
ランジェリーさん来たら、ホッとする。
救世主。
でも絶対に話しかけちゃだめ。
話しかけた時点で二度と店に来なくなる。

かなり不器用そうな人だ。
だから絶対に話しかけない。
最低限の会話だけ。

【5】“観察する”ということ

色んなお客さんが居るんだな、と思った。
店番が1人だから、どんな人が来ても自分が対応しなければならなかった。
しかも、狭いし逃げられない。
そういえば、風俗店の入口で立つ仕事してる人もよく来店されていたな。

あの頃、知らず知らずのうちに”観察力”を鍛えられていた気がする。
今でも人と会うとき、どこかでその目を使っている。

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